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鍵屋に合鍵を作ってもらった話

新しい家に引越した。
過去2回ほど賃貸物件への引越しを経験しているが、いずれも鍵はマスターとスペアの2本貰えた。だから当然今回も2本貰えるものと思っていたが、渡されたのは1本だけで、合鍵が欲しければ自分で作れとのこと。
かなり不満に思ったものの、調べてみると1本しか貰えないのはよくあることらしい。

渋々、とある駅の近くの鍵屋で合鍵を作ることにした。
この駅の近くには鍵屋が二つある。まずは一つ目の店に鍵を持っていき、いくらかかるか聞いてみた。老夫婦がやっているお店だった。

「これは特殊な鍵だから、5000円かかりますねー」

高い。高すぎ。
なんでこんな低家賃の家にそんな特殊な鍵付けるかなー。普通の持つところが四角でギザギザのやつとかでいいのに。もしくは鍵屋にぼったくられてるのか?

というわけで二つ目の鍵屋に行って同じようにいくらかかるか聞いてみた。普通のおじさんがやっているお店だった。

「これは特殊な鍵だから、5000円かかりますねー」

…こいつら絶対グルだ!カルテルだ!(たぶん本当に特殊で複製が難しいだけ)

しかたなく一つ目の店に戻った。
ぼくはそこでおばあさんに対して精一杯、貧乏学生を演じた(紛れもない事実である)。

「もう少しだけ安くならないですかね…。」

「(少し小さな声で)じゃあ4500円にしてあげましょうか。」

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昔、テレビである伝説的脱獄者の話をやっていた。

牢屋には当然、鍵がかかっていた。だが、その脱獄者はどこからか入手した針金を牢屋内で加工し、自力で合鍵を作ろうとした。
その方法は、指を鍵穴に強く押し当て、その時指についた型に合うように針金を曲げるというものだったと思う。さらに、作りかけの鍵はいつも尻の割れ目に隠して監視の目をくぐり抜けていた。

現代の鍵では絶対に不可能な方法だし、この話もどこまで本当かわからない。けれど、ものすごくロマンのある話だ。

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できあがった合鍵の精巧さを見て、ぼくはこの話を思いだした。鍵屋の技術にも似たようなロマンを感じたからだ。きっと複製が難しい鍵ほど職人の腕が鳴るのだろうと。

安くしてもらったのもあって意気揚々と家に帰った。

そして、鍵職人のおじいさんに作ってもらった合鍵をシリンダに刺した。




鍵は、回らなかった。