新人設計者の海外出張
「この中で、海外で仕事をしてみたいと思っている人は手を上げてください」
ちょうど1年前ぐらい、関係会社で新入社員研修を受けていた時のことだ。
一緒に研修を受けていた関係会社の新入社員の過半数はその時手を上げていた。
いやいや…あんたら国内専門の営業部隊やないか…海外で仕事したいんやったら入る会社間違ってるやん…
私は手を上げなかった。
海外で働くことの意味がわからなかったから。特別海外が嫌だということでもなかったが、海外志向はほぼ0だった。
あれから1年。私の当初の思いとは裏腹に、海外出張を命ぜられた。
出張地は中国。もちろん中国に行くのは初めてのことだった。
出張目的は製造現場の立会い業務で、設計した部品が設計意図通りに現場で作ることができるかを確認することである。
量産に向けて部品を金型で成形するわけだが、何も課題が発生せずはいできましたということはまずなく、必ずと言っていいほど設計者が意図した通りにできない、または困難な部分が出てくる。特に、製品の外装キャビネット部品では、内部形状が複雑になりがちであるため、その分課題の数も多くなる。
そしてその課題は、設計段階では予想がつかず現場でやってみて初めて分かるものがほとんどである。その課題が発生したとき、基本的なことならば現場レベルで解決できるが、現状の方法では難しい場合は設計者が自ら解決方法を考えたり、100%設計通りのものが技術的あるいは日程的にできそうにない場合には、「Aという特性とBという特性のどちらを優先させるのか」という判断をしなければならない。そして、現場で出た課題をフィードバックし、設計に反映させることによって部品の完成度を量産品質レベルへ高めていく。
こうした現場の立会い業務は、その部品のことを一番良く知っている人が会社の代表として行うべきであり、それは誰かというとその部品の設計担当者というわけである。
したがって、自分が設計を担当した部品の製造現場が海外である場合には、設計者は半強制的に海外出張をしなければならないということになる。(会社に入って少しでも早く海外出張をしたいなら海外営業よりも設計に入るべきかもしれない。ただし出張先はほぼアジア圏に限る)
というわけで約10日間の中国出張をしてきたので、その時感じたことを書き記す。
・最低限の準備は必須
海外出張をするにあたってまず必要なのが、出張地のことをあらかじめ調べておくということである。天候、文化、食事、言葉など、日本とは全く異なることがたくさんあるため、最低限このあたりは調べておいたほうば良い。加えて、同じ部署の出張経験者に聞いておくと安心。
(食事)
特に、食事は体調に直結するため、どういうものを食べるのか(あるいは食べないのか)を確認しておくことを怠ると悲惨なことになりかねない。ちなみに私は現地の飲食店で食事をし、生焼けの肉を食べたら案の定めちゃくちゃお腹を壊した。中国のローカル飲食店の衛生状況を信用してはならないとつくづく思った。心配ならばちょっと高いけど比較的きれいな日本料理店にいくといい。あと出張中は野菜が不足しがちになるので、ビタミン剤を持っていったら結構調子良かったから個人的にオススメ。胃腸薬や下痢止めも忘れずに。
(言葉)
言葉に関しては、出張先のメーカーに日本語を話せる人がいるため、中国語が話せなくても仕事ができないということはない。だが、しばらくその地に滞在するとなると、少なくとも簡単な挨拶や数字などは知っておかないと、生活面で不自由するので簡単な参考書で勉強しといたほうがよい。ちなみに、英語は通じなかった。もし、「夜のお店で異性と仲良くなりたい!」と思うなら、現地の言葉を猛勉強していこう。きっと努力する価値はあるはず。
スマホにあらかじめ翻訳アプリを入れておくと、困ったときの現地人との意思疎通に便利。ポイントは、オフラインでも使えること。私はgoogle翻訳の中国語パックと百度翻訳の中国語パックをダウンロードし、オフラインで使えるようにしていったが、とても役に立った。
(ネット)
あと、これは中国に限るかもしれないが、ネットが非常につながりにくく、googleやtwitterなど規制されていて使えないwebサービスがたくさんあるので、ネットに依存している人は注意。オカズとかもめっちゃ探しにくい。必要な情報は可能な限り手持ちの情報端末のローカルに保存しておこう。私は中国滞在中にtwitterのアカウントが何者かに乗っ取られたのだが、twitterにログインすることができず、私のアカウントが大勢の人に謎の広告をリプライし続けるという現状を友人から報告してもらっても何もできずただ途方に暮れるのみなのであった…。

↑中国出張中に乗っ取られたアカウント(笑)(乗っ取られたこと自体は中国出張とは関係ない)
・会社の代表として業務を遂行するということ
出張先のメーカーに一人で訪問するということは、相手からすれば自分は会社の代表者ということになる。自分の判断・指示・決定がそのまま会社のそれとなるということだ。これは想像以上に重いことだった。滞在中、何度も自分で判断しなければならない場面に遭遇した。私が新人設計者であることなど相手からすれば関係なく、私の要求・提案に対して、「それはこういう理由で技術的に厳しいですね(わかるよね?)」とかわされる。しかし、私も会社のミッションを背負っている以上、そうなんですかと簡単に引き下がるわけにもいかない。
「設計値通り、厚み○○mmで成形して欲しいと訴えましたが、その条件ではとても良品を取ることはできないと言われました。」
成形条件調整で現場から言われたことをそのまま上司に伝えた。
「できないと言われたことに対し、どうやればできるようになるのかをメーカーと一緒に必死になって考え、できるように持っていくということをやらなければわざわざ君が行く意味はないよね。ここでの君の頑張りが製品のスペックに直結するんだよ。」
と上司に言われた。本当にそのとおりだと思った。
メーカーに厚み○○mmの必要性を訴えかけ、現場の担当者に協力を仰ぎ、プレッシャーで冷や汗をかきながら試行錯誤を続けた結果、なんとか設計値通りに成形する条件を見つけることができた。
メーカーに「できない」と言われたとこからが本当のスタートなのであり、できるところまでやって至った結果に対しては、腹をくくる。こういう心の持ちようが大切だと感じた。
・理想を追求することが設計者としての役割
出張中、はじめの何日かは自社の人は私一人だったのだが、数日後に別部門の人が数人合流した。
彼らは、設計部門ではなく、自社の組み立て工場の管理部門の人である。部門が違えばミッションや考えることも違ってくる。往々にして、私のような設計部門の考えと工場管理部門の考えは相反するものとなる。
開発部門の人間は、「いかに設計意図通りのものを作り上げ、製品としての完成度を高めるか」を第一に考え、立会い業務を進める。
一方、工場管理部門の人間は、「いかに不良品を少なくし、工場を円滑に回すか」を第一に考える。
どちらもモノづくりをする上で欠かせないことであるのは確かだが、少々ベクトルが違うのは事実である。設計通りのものを不良少なく作れればみんなハッピーになれるのだが、不良率を下げるためにはなにかを犠牲にする必要があるということがほとんどだ。
どちらがメーカーフレンドリーなのかといえば、間違いなく工場管理部門の人間である。彼らは、メーカーができる範囲で不良率を下げることを考える。メーカーが無理というなら無理。そういうスタンスなのだ。
そんな中、設計者としての役割は何なのかというと、極限まで理想を追求することだ。製造上の不良を少なくする取組みというものは、後追いで可能である。メーカーの人に聞いた話では、量産開始時に歩留まりが良くなくても徐々に上げていけるものなのだという。だが、部品のスペックを後から良くするのは困難である。一度緩めた条件を後で厳しくすることは難しい。だから、はじめの部分でどこまで厳しく条件を追い求めるかが製品としての完成度を高める上で非常に重要なのである。時にメーカー泣かせだと揶揄されることもあろうが、そんなことにひるんではならない。
現場への理解は設計者として必要不可欠だが、現場への甘やかしは不要である。新人だろうとそこは設計者として強い意志を持たねばならない。
*
入社当時、海外志向はほぼなかったのだが、海外出張を経験したことで設計者として大切なことをたくさん学ぶことができたと思う。できなかったこと、自分自身のこれからの課題もいくつも出てきた。
結局、「海外で仕事がしたい」って思っていようが思っていなかろうが、仕事をする上で必要があれば行けるし行かなきゃならないってかんじ。
「海外で仕事がしたい」っていう人は、どうして海外で仕事がしたいのだろうか。目的あるの?”海外”だったらどこでもいいの?中国とかいろいろやばいよ?
私はやっぱり、
日本が一番です!!
せっかくなのでブログっぽく中国で撮った写真載せときます。


ちょうど1年前ぐらい、関係会社で新入社員研修を受けていた時のことだ。
一緒に研修を受けていた関係会社の新入社員の過半数はその時手を上げていた。
いやいや…あんたら国内専門の営業部隊やないか…海外で仕事したいんやったら入る会社間違ってるやん…
私は手を上げなかった。
海外で働くことの意味がわからなかったから。特別海外が嫌だということでもなかったが、海外志向はほぼ0だった。
あれから1年。私の当初の思いとは裏腹に、海外出張を命ぜられた。
出張地は中国。もちろん中国に行くのは初めてのことだった。
出張目的は製造現場の立会い業務で、設計した部品が設計意図通りに現場で作ることができるかを確認することである。
量産に向けて部品を金型で成形するわけだが、何も課題が発生せずはいできましたということはまずなく、必ずと言っていいほど設計者が意図した通りにできない、または困難な部分が出てくる。特に、製品の外装キャビネット部品では、内部形状が複雑になりがちであるため、その分課題の数も多くなる。
そしてその課題は、設計段階では予想がつかず現場でやってみて初めて分かるものがほとんどである。その課題が発生したとき、基本的なことならば現場レベルで解決できるが、現状の方法では難しい場合は設計者が自ら解決方法を考えたり、100%設計通りのものが技術的あるいは日程的にできそうにない場合には、「Aという特性とBという特性のどちらを優先させるのか」という判断をしなければならない。そして、現場で出た課題をフィードバックし、設計に反映させることによって部品の完成度を量産品質レベルへ高めていく。
こうした現場の立会い業務は、その部品のことを一番良く知っている人が会社の代表として行うべきであり、それは誰かというとその部品の設計担当者というわけである。
したがって、自分が設計を担当した部品の製造現場が海外である場合には、設計者は半強制的に海外出張をしなければならないということになる。(会社に入って少しでも早く海外出張をしたいなら海外営業よりも設計に入るべきかもしれない。ただし出張先はほぼアジア圏に限る)
というわけで約10日間の中国出張をしてきたので、その時感じたことを書き記す。
・最低限の準備は必須
海外出張をするにあたってまず必要なのが、出張地のことをあらかじめ調べておくということである。天候、文化、食事、言葉など、日本とは全く異なることがたくさんあるため、最低限このあたりは調べておいたほうば良い。加えて、同じ部署の出張経験者に聞いておくと安心。
(食事)
特に、食事は体調に直結するため、どういうものを食べるのか(あるいは食べないのか)を確認しておくことを怠ると悲惨なことになりかねない。ちなみに私は現地の飲食店で食事をし、生焼けの肉を食べたら案の定めちゃくちゃお腹を壊した。中国のローカル飲食店の衛生状況を信用してはならないとつくづく思った。心配ならばちょっと高いけど比較的きれいな日本料理店にいくといい。あと出張中は野菜が不足しがちになるので、ビタミン剤を持っていったら結構調子良かったから個人的にオススメ。胃腸薬や下痢止めも忘れずに。
(言葉)
言葉に関しては、出張先のメーカーに日本語を話せる人がいるため、中国語が話せなくても仕事ができないということはない。だが、しばらくその地に滞在するとなると、少なくとも簡単な挨拶や数字などは知っておかないと、生活面で不自由するので簡単な参考書で勉強しといたほうがよい。ちなみに、英語は通じなかった。もし、「夜のお店で異性と仲良くなりたい!」と思うなら、現地の言葉を猛勉強していこう。きっと努力する価値はあるはず。
スマホにあらかじめ翻訳アプリを入れておくと、困ったときの現地人との意思疎通に便利。ポイントは、オフラインでも使えること。私はgoogle翻訳の中国語パックと百度翻訳の中国語パックをダウンロードし、オフラインで使えるようにしていったが、とても役に立った。
(ネット)
あと、これは中国に限るかもしれないが、ネットが非常につながりにくく、googleやtwitterなど規制されていて使えないwebサービスがたくさんあるので、ネットに依存している人は注意。オカズとかもめっちゃ探しにくい。必要な情報は可能な限り手持ちの情報端末のローカルに保存しておこう。私は中国滞在中にtwitterのアカウントが何者かに乗っ取られたのだが、twitterにログインすることができず、私のアカウントが大勢の人に謎の広告をリプライし続けるという現状を友人から報告してもらっても何もできずただ途方に暮れるのみなのであった…。

↑中国出張中に乗っ取られたアカウント(笑)(乗っ取られたこと自体は中国出張とは関係ない)
・会社の代表として業務を遂行するということ
出張先のメーカーに一人で訪問するということは、相手からすれば自分は会社の代表者ということになる。自分の判断・指示・決定がそのまま会社のそれとなるということだ。これは想像以上に重いことだった。滞在中、何度も自分で判断しなければならない場面に遭遇した。私が新人設計者であることなど相手からすれば関係なく、私の要求・提案に対して、「それはこういう理由で技術的に厳しいですね(わかるよね?)」とかわされる。しかし、私も会社のミッションを背負っている以上、そうなんですかと簡単に引き下がるわけにもいかない。
「設計値通り、厚み○○mmで成形して欲しいと訴えましたが、その条件ではとても良品を取ることはできないと言われました。」
成形条件調整で現場から言われたことをそのまま上司に伝えた。
「できないと言われたことに対し、どうやればできるようになるのかをメーカーと一緒に必死になって考え、できるように持っていくということをやらなければわざわざ君が行く意味はないよね。ここでの君の頑張りが製品のスペックに直結するんだよ。」
と上司に言われた。本当にそのとおりだと思った。
メーカーに厚み○○mmの必要性を訴えかけ、現場の担当者に協力を仰ぎ、プレッシャーで冷や汗をかきながら試行錯誤を続けた結果、なんとか設計値通りに成形する条件を見つけることができた。
メーカーに「できない」と言われたとこからが本当のスタートなのであり、できるところまでやって至った結果に対しては、腹をくくる。こういう心の持ちようが大切だと感じた。
・理想を追求することが設計者としての役割
出張中、はじめの何日かは自社の人は私一人だったのだが、数日後に別部門の人が数人合流した。
彼らは、設計部門ではなく、自社の組み立て工場の管理部門の人である。部門が違えばミッションや考えることも違ってくる。往々にして、私のような設計部門の考えと工場管理部門の考えは相反するものとなる。
開発部門の人間は、「いかに設計意図通りのものを作り上げ、製品としての完成度を高めるか」を第一に考え、立会い業務を進める。
一方、工場管理部門の人間は、「いかに不良品を少なくし、工場を円滑に回すか」を第一に考える。
どちらもモノづくりをする上で欠かせないことであるのは確かだが、少々ベクトルが違うのは事実である。設計通りのものを不良少なく作れればみんなハッピーになれるのだが、不良率を下げるためにはなにかを犠牲にする必要があるということがほとんどだ。
どちらがメーカーフレンドリーなのかといえば、間違いなく工場管理部門の人間である。彼らは、メーカーができる範囲で不良率を下げることを考える。メーカーが無理というなら無理。そういうスタンスなのだ。
そんな中、設計者としての役割は何なのかというと、極限まで理想を追求することだ。製造上の不良を少なくする取組みというものは、後追いで可能である。メーカーの人に聞いた話では、量産開始時に歩留まりが良くなくても徐々に上げていけるものなのだという。だが、部品のスペックを後から良くするのは困難である。一度緩めた条件を後で厳しくすることは難しい。だから、はじめの部分でどこまで厳しく条件を追い求めるかが製品としての完成度を高める上で非常に重要なのである。時にメーカー泣かせだと揶揄されることもあろうが、そんなことにひるんではならない。
現場への理解は設計者として必要不可欠だが、現場への甘やかしは不要である。新人だろうとそこは設計者として強い意志を持たねばならない。
*
入社当時、海外志向はほぼなかったのだが、海外出張を経験したことで設計者として大切なことをたくさん学ぶことができたと思う。できなかったこと、自分自身のこれからの課題もいくつも出てきた。
結局、「海外で仕事がしたい」って思っていようが思っていなかろうが、仕事をする上で必要があれば行けるし行かなきゃならないってかんじ。
「海外で仕事がしたい」っていう人は、どうして海外で仕事がしたいのだろうか。目的あるの?”海外”だったらどこでもいいの?中国とかいろいろやばいよ?
私はやっぱり、
日本が一番です!!
せっかくなのでブログっぽく中国で撮った写真載せときます。


スポンサーサイト
最新コメント